第16話:「心が通じ合う瞬間」
― 四柱推命編 ―
「相性って、本当にあるのかな」
春菜(はるな)は、彼と並んで歩く帰り道、ふとそんな疑問を抱いた。
付き合って8ヶ月。
喧嘩もしたし、何度か距離を置いた時期もあった。
でも、それでも彼の隣が心地よく、手を繋げば安心できた。
ただ、最近、ふたりの間に流れる空気が微妙に変わってきた。
彼の発言に敏感に反応してしまったり、言いたいことを飲み込んでしまったり。
「私たち、本当に合ってるのかな」
その不安が、じわじわと心を侵食していた。
そんな時、SNSで偶然目にしたのが「四柱推命」の占いだった。
「生年月日から見る、あなたと彼の本当の“宿縁”」
「四柱推命って、生まれた日でわかるのか…」
春菜は気づけば申し込みフォームを入力していた。
彼との未来に答えがほしくて――。
◆
電話の向こうの声は、凛としていながらもあたたかかった。
「こんにちは、春菜さん。今日は四柱推命をもとに、彼との関係について見ていきますね。
まずはおふたりの生年月日を教えていただけますか?」
春菜は自分と彼の誕生日を伝えた。
占い師はすぐにデータを照らし合わせながら、静かに言った。
「春菜さんと彼は、五行でいうと“木”と“水”の関係ですね」
「…水と木、って相性はどうなんでしょう?」
「実はとても良いんですよ。水が木を育てるように、彼の存在があなたの成長を促す関係です。
ただし、育ちすぎると木が水を吸い尽くしてしまうように、時にバランスが崩れることもあります。
だから、どちらかが我慢しすぎないことが、この関係を育てる鍵になります」
「…たしかに、私が我慢していること、多いかもしれません」
「そうですね。あなたの命式を見ていると、感情を抑えがちな星が多く出ています。
相手に嫌われたくない、と思って本音を隠してしまう傾向があるかもしれません。
でも、彼の命式を見ると、“本音でぶつかってくる人”を好む傾向があります」
「……えっ。私とは真逆…?」
「でもそれは、補い合える関係でもあるということですよ。
あなたが少し勇気を出して気持ちを伝えれば、彼は喜び、より絆が深まるはずです」
◆
「おふたりは“異質”だけど“補完”関係にある――まさに陰と陽のような関係です。
だからこそ、ぶつかりながらも一緒にいる意味がある。
あなたが彼を理解しようとし、彼もあなたの気持ちを受け止めようとすることで、お互いに成長できます」
春菜はゆっくりと息を吐いた。
ずっと知りたかったことが、静かに心に沁みこんでいく。
「……私たち、うまくいけますか?」
「命式の流れを見ると、今年は“転換の年”に入っています。
この数ヶ月が、あなたにとって“心の選択”の時期になります。
避けるのではなく、向き合うこと。
それが、運命を動かす鍵です」
◆
通話を終えた後、春菜は思った。
「答えは、いつも“自分の中”にあったんだ」
四柱推命が教えてくれたのは、未来そのものではない。
“彼との違い”を知ること、そしてそれをどう生かすかを教えてくれたのだ。
数日後。
春菜は彼とカフェで向き合った。
ぎこちなく始まった会話の中で、春菜は勇気を出して言った。
「ねえ、私、もっと本音で話してもいい?」
彼は少し驚いた顔をしたあと、静かにうなずいた。
「むしろ、そうしてほしかったよ」
その瞬間、春菜の中の何かが解けた。
心の奥で絡まっていた糸が、ふっとほどけるような――
そんな感覚。
「私たちって、全然違うね」
「でも、だから一緒にいられるのかもね」
目が合ったそのとき、言葉以上に伝わるものがあった。
心が、確かに通じ合った。
違いを知り、受け入れた先に、あたたかい未来の光が見えた気がした。
✨編集後記
四柱推命は、単なる運勢を見るための占いではありません。
その人の“性質”や“関係性の本質”を深く見つめる手段です。
違いに気づくことで、よりよい関係を築ける――そのヒントが、命式の中には詰まっています。
