第2話:「好きすぎて、苦しいのはなぜ?」
― リーディング編 ―
彼からLINEが来ない朝は、起きるのがつらい。
画面を開いて、既読もついていないメッセージを見ては、
また私、何かやっちゃったかなって思ってしまう。
言葉の温度、スタンプの数、返信の間隔——
まるで暗号を解くみたいに、私は“彼の気持ち”を追いかけていた。
「……疲れるわけだよね、こんな恋」
口に出しても、どこか他人事みたいだった。
“彼と一緒にいたい”はずなのに、“嫌われるのが怖い”のほうが先に立ってしまう。
この気持ちって、恋じゃないのかもしれない。
◆
美月(みづき)が「エネルギーリーディング」を受けてみようと思ったのは、インスタの占い投稿をぼんやり眺めていたときだった。
《あなたの“恋愛のクセ”、エネルギーで視えています》
その言葉に、ふと動けなくなった。
「クセ」——たしかに私の恋は、いつも似ている。
自分を小さくして、相手を優先して、苦しくなって、それでも“愛されたい”って思い続ける。
「……一度、見てもらおうかな」
少し怖い。でも、なにかを変えたい。
◆
電話越しのリーダーの声は、静かで、でもとてもあたたかかった。
「こんにちは、美月さん。
今日は“好きすぎて苦しい”という恋のご相談ですね?」
「はい……。彼に嫌われたくなくて、顔色ばかり見てしまって……」
「うんうん、大丈夫ですよ。
では、リーディングを始める前に、少しだけ呼吸を整えましょうか」
目を閉じて、深く吸って、ゆっくり吐く。
その呼吸に合わせて、彼女の声がふわりと優しく包んでくる。
「では、あなたのエネルギーにチューニングしていきますね。……ああ、なるほど」
「……え?」
「“第2チャクラ”が、少し過剰に反応しているようです。ここは“愛されたい・必要とされたい”という欲求をつかさどる場所。
つまり、“愛されたい”が強くなりすぎて、逆に苦しくなっているんですね」
図星だった。
「好き」というより、「求められたい」「必要とされたい」。
それが恋の原動力になってしまっている気がした。
「あなたのエネルギーは、まるで“彼”に向かって、ずっと手を伸ばしているみたい。
“お願い、見て”って。
でも……“自分のエネルギー”が、自分の中に残ってない状態です」
「……それって、危ないことなんですか?」
「うん、疲れちゃうよね。
愛されたいって思うのは自然なこと。
でも、“愛されないと、私は空っぽ”って思い込みがあると、エネルギーがいつも外に流れてしまうの」
その言葉に、胸の奥がぎゅっと掴まれた気がした。
「だからこそ、まずは“自分のエネルギー”を、自分に戻してあげよう」
リーダーの声に合わせて、美月はイメージを膨らませる。
胸の奥に、ぽっかり空いた穴がある。
そこに、“誰かに愛されたい”という気持ちがずっと風のように吹き抜けていた。
でも今は、自分の手でそこに光を灯していく。
リーダーの声が優しく誘導する。
「自分で、自分のことを“かわいそう”って思ってた部分。
“彼がいなきゃ、私なんて”って思っていた部分。
……その子に、優しく言ってあげてください。“いてもいいよ”って」
涙が、勝手にあふれてきた。
「好きすぎて苦しいのは、あなたが悪いんじゃない。
“愛されたいって願う強さ”が、ただ行き場を失っていただけなんです。
これからは、その強さを“自分を癒す力”に変えていきましょうね」
「……そんなふうに思ったこと、なかったです」
「恋は、誰かを好きになることだけじゃない。
“自分を思い出す”ためのきっかけにもなるんですよ」
◆
その日から、美月は毎日、小さな“自分癒し”をはじめた。
・スマホを気にせず、お風呂で好きな音楽をかける。
・「今日頑張ったこと」をノートに1行だけ書く。
・朝のコーヒーに、ほんの少し高級な豆を使ってみる。
彼からはまだ返信がないけれど、不思議と心は軽かった。
以前の自分だったら、焦ってまた追いLINEしていたかもしれない。
でも今は、**“自分を取り戻す時間”**を大切にしたかった。
ある朝、スマホに届いた1件の通知。
「ごめんね、ちょっと余裕なくて。今度、ちゃんと話したいな」
彼からだった。
心臓が跳ねた。でも、前みたいに“それだけ”で舞い上がることはなかった。
私には、ちゃんと“私の時間”がある。
彼の言葉がうれしいのは変わらないけれど、
今の私は、彼の言葉で自分の価値を決めてはいない。
✨編集後記
恋にのめり込みすぎて、自分を見失ってしまうことがあります。
でも、それはあなたが弱いからではありません。
**あなたが本当に「愛を求めている証」**なのです。
“愛されたい”と思うその気持ちを、自分自身へと向けることができたとき、
恋は「誰かに執着するもの」ではなく、「自分を満たすもの」へと変わっていきます。
