彼と初めて会ったのは、友人の紹介だった。
飲みの席で意気投合して、気づけばその夜、彼の部屋にいた。
「楽しかったね」と彼が笑ったとき、
私はもう、少し好きになってしまっていた。
名前は瑞貴（みずき）。34歳。
やさしくて、会えばいつも抱きしめてくれる。
でも、“付き合おう”とは言われていない。
彼と私の関係は、いわゆる「セフレ」。
恋人ではないけれど、身体を重ねる関係。
最初は割り切っているつもりだった。
寂しい夜に埋め合わせができるだけで、
誰かのぬくもりがあるだけで、救われる気がした。
でも、会うたびに私は、彼の仕草や言葉を
“恋人らしさ”として拾い集めてしまうようになった。
「これって、ただの都合のいい関係？」
そんな疑問が浮かんで、でも口には出せなくて。
もし言ったら、この関係さえ壊れてしまう気がして。
友達にも言えなかった。
「やめときなよ」って、きっと正論を返されるから。
でも、私は正論じゃなくて、
ただ、この苦しさをわかってほしかった。
そんな夜。
Instagramを眺めていたら、ふと広告が出てきた。
「彼の気持ち、占ってみませんか？」
──占い？
ほんの数秒、ためらって、私はリンクを開いた。
「電話占い ココナラ」
レビューが多くて、思ったよりも“ちゃんとしてそう”。
思い切って予約を取り、
その夜、私はひとりでスマホを握っていた。
占い師の名前は「真白（ましろ）」先生。
やわらかくて、でも芯のある声の人だった。
私が「セフレかもしれない人がいる」と話すと、
彼女はすぐに遮ったりせず、黙って聞いてくれた。
「彼とは、どんな時間を過ごしていますか？」
「楽しいです。……でも、いつも私から誘ってばかりで。
好きって言ったら、離れていきそうで怖いんです」
真白先生は、私と彼の生年月日を聞き、
タロットカードを静かに切った。
数秒後、彼女が言ったのは、
私がどこかでわかっていた答えだった。
「彼はあなたに対して、恋愛というより“安心”を感じています。
でも、責任を持って付き合う覚悟は、まだありません」
「……ですよね」
「でもあなたは、もう“つながり”ではなく、“愛されたい”と感じている。
このままの関係を続けると、自分をすり減らしてしまいますよ」
私の目から、ぽろぽろと涙がこぼれた。
「“愛されたい”って、
言っちゃいけないことだと思ってたんです」
「言っていいんです。むしろ、言わなきゃ苦しくなります」
あの電話から3日後。
私は彼にLINEを送った。
——「会いたい。でも、もうこのままの関係は無理かもしれない」
返信はなかった。
代わりに、静かに未読のままの時間が流れた。
でも、私は泣かなかった。
あの夜、自分の気持ちに正直になったことで、
私はようやく“自分自身”に戻れた気がした。
セフレという関係は、自由で、心地いいときもある。
でもそれが、“本当の幸せ”から遠ざけてしまうこともある。
私たちが本当に欲しいのは、
“都合のいい関係”じゃなくて、
“自分の存在が、大切にされている”という実感なのだ。
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あなたが、ほんとうに欲しい関係を取り戻せますように。
