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『シャンパーニュと、愛してはいけない人』

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――乾杯したその瞬間、
わたしたちはもう、嘘をついていた。


彼とは、友達の結婚式で出会った。
ハウスウェディングの開放的なガーデン、キラキラした新郎新婦、
そして手にしていたのは、祝福のスパークリング――シャンパーニュだった。

「君の笑顔に、泡が似合うね」
そんなベタなセリフに思わず笑った私に、彼は言った。
「ごめん、今日だけは、ちゃんと大人の距離を守れない気がする」

最初から、どこか危うかった。
でも、それがたまらなく魅力的だった。


後日、偶然を装って再会を重ねた。
ランチ、夜景、深夜の電話。

「あなた、既婚者でしょ?」
「……そうだよ。だけど、心はもう、あの家にはない」

その瞬間、泡のように何かが弾けて、
私は“恋をする覚悟”を決めてしまった。


今夜、「Noir」のカウンターに並んで座る。
「この関係は長くは続かない」
どちらも分かっていた。

それでも今夜は、理由もない記念日みたいに、シャンパーニュを頼んだ。

🍾 シャンパーニュ/ブラン・ド・ノワール(ピノ・ノワール100%)/フランス・シャンパーニュ地方
赤ブドウから造られる白のシャンパーニュ。
熟したリンゴ、トースト、ヘーゼルナッツの香り。
泡はきめ細かく、余韻は長く、感情の奥に静かに響く。

「乾杯しよう。好きになったことに」
彼がそう言った瞬間、私の喉の奥がきゅっと締まった。


他人から見れば、不倫。
自分でも、正しいとは思っていない。

でも、“誰かを好きになる自由”まで、責めることができるだろうか。

グラスの泡を見つめながら、私は黙っていた。


「もし君が僕から離れても、ちゃんと祝福する」
「やめてよ、それって逃げ道のある愛じゃない」
「そうかもしれない。でも僕は――君を幸せにできるとは、言えないから」

グラスの中で、泡がはじけて、消えていく。
まるで、恋の期限みたいに。


別れ際、彼はそっと言った。
「今日のシャンパーニュ、きっとずっと忘れないよ」

私も頷いた。
それは、恋の記憶というよりも、
“自分が誰かを本気で想った証”だったから。


あの夜の泡は、もう消えてしまったけれど。
私の心に残ったものは、
誰にも言えない、でも確かに存在した恋だった。


✨あとがき:泡は消えても、想いは残る

シャンパーニュは、誰かの門出を祝うもの。
でも時に、祝えない恋の“儚さ”を包み込む役割も担う。

愛してはいけない人を、心から愛してしまったとき。
泡のように消える前提で、それでも飲み干したい夜がある。

あなたにも、そういう夜がありましたか?
泡の奥に沈めた想い――
今はそっと、グラスの底に預けてください。

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