ある夜、仕事帰りの電車でぼんやりとスマホを眺めていたら、通知がひとつ。
──「久しぶり。元気にしてる?」
……名前を見て、背筋が一瞬にして凍る。
元彼、だ。
心臓がひとつ余計にドクンと鳴ったあと、脳内会議が即時開催される。
「これはただの世間話?それとも何かの伏線?」
「返信すべき?既読スルーが大人の対応?」
「ていうか、なんで今さら?」
私たちの多くは、この“突然の元彼LINE”というミステリーに、一度は巻き込まれたことがあるんじゃないかしら。
元彼からのLINEって、妙に「中途半端」なのが厄介だ。
スタンプひとつだったり、「どうしてる?」の5文字だったり。
恋愛ドラマであれば、この時点で背景にしっとりとピアノが流れるところだけど、
現実は、残高不足の通知と冷えた缶コーヒーが机にあるだけ。
でも、返信するべきなのか。無視が正解なのか。
この判断って、**想像以上に高度な“心理戦”**だ。
返信するか、しないか。
その選択肢の裏側には、さまざまな想いが渦巻いている。
■返信しようとする自分は──
「今さら何?って思うけど…ちょっと気になるのは事実」
「返したところで別に何も起きないよね?」
「むしろ、私の“余裕感”を見せておくべき?」
■無視したい自分は──
「もう終わった関係だし、今さら蒸し返したくない」
「また傷つくくらいなら、最初から無視が安全」
「未練があるって思われたくない」
LINEひとつで、こんなに感情を掘り起こされるなんて。
ほんと、元彼って罪な存在だわ。
元彼って、ある意味、**“過去の亡霊”**のようなもの。
忘れた頃にやってきて、思い出と現実をかき乱す。
しかもそのLINEは、決まってこちらが平穏に過ごしているときに限って届く。
女友達とワインを飲みながら、「今の生活、悪くないよね〜」なんて話していた矢先に、
「久しぶり」と来る。
え? 今?
このタイミングで?
それはまるで、メイクもしてない日に元カレと街中で遭遇するくらい、タイミングが最悪で完璧なのだ。
でも私たちは知ってる。
そのLINEの本当の意味を探っても、たいていは何もない。
寂しかったのか、暇だったのか、あるいはただ懐かしくなっただけ。
大して深い意味もなく、“手当たり次第”の一人に選ばれただけ、かもしれない。
だけど、心のどこかで、こうも思ってしまう。
「もしかして、彼、私のことまだ……?」
そう考えてしまうのが、恋の後遺症ってやつ。
返信をすることで、またあの沼に足を踏み入れてしまうかもしれない。
でも無視したところで、完全に“自分の気持ちに整理がついたわけじゃない”と気づかされる。
返信してもいいし、無視してもいい。
正解なんて、きっと誰も知らない。
でも、ひとつだけ確かなのは──
「そのLINEひとつで、あれこれ悩む自分」を少しだけ愛してあげたい。
だって、それだけ本気で恋をしていた証拠だし、
その分だけ、ちゃんと立ち直ってきたってことだから。
そして私は思う。
もし、返信するとしたらこう言ってやろう。
「元気だよ。あなたの知らない私のままで。」
それで、いいんじゃないかしら。
