その夜、彼からのLINEの返事は「うん」だけだった。
かつては「今何してる?」「会いたいね」って毎晩のように届いていた言葉たちが、今ではまるで業務連絡。
会いたいと言わなくなった彼と、会いたいと言えなくなった私。
ああ、これはもしかして、恋が終わる予感?
そう気づいたとき、冷蔵庫の中のワインよりも、心の中の沈黙のほうがずっと冷たく感じた。
恋が終わるときって、ドラマみたいに泣き叫んで別れるよりも、
静かで、曖昧で、気づかないふりをしてしまうくらいさりげなく訪れるものだ。
好きじゃなくなったんじゃない。
でも、好き“だけ”じゃどうにもならないことが、確かにある。
お互いの温度がずれていく。
未来の話をしなくなる。
会話が浅くなる。
それでも「でもまだ好きだし」と自分に言い聞かせて、
目をそらしてしまう。
まるで、冬物のコートを春まで着続けているように。
もう季節は変わっているのに、そのぬくもりにしがみついている自分がいる。
私の親友は、ある日ポツリと言った。
「恋って、終わる前に“予感”があるのが、一番つらいんだよね」
本当にその通りだと思う。
まだ別れてない。
でも、もう前みたいじゃない。
その中間の場所――名前のつけられない空白の時間が、
いちばん心をすり減らす。
返信が遅くても怒れない。
会えなくても責められない。
だって、彼のことを“信じたい”から。
でも、本当はもう知ってるんだ。
この恋が、少しずつ“終わる方向”に向かっていることを。
私は自問する。
「いつから、こんなに我慢するようになったんだろう?」
言いたいことを飲み込んで、
察してほしい気持ちを隠して、
笑顔の仮面を貼り付けて。
それって、本当に“恋”だったっけ?
たぶん私は、「この恋を終わらせたくない」んじゃなくて、
「この恋が終わった自分」を受け入れるのが怖かっただけなのかもしれない。
夜になると、不安が大きくなる。
「このままでいいのかな」っていう問いが、ワインより深く、
スマホの通知より静かに心をノックしてくる。
でもその問いに、ちゃんと答えようとすることが、
自分を大切にする第一歩なのかもしれない。
恋は、必ずしも永遠じゃなくていい。
でも、自分自身への愛情は、いつだって最優先であってほしい。
ある夜、思い切って聞いてみた。
「私たち、最近ちょっと距離あるよね」
彼は少し黙ってから、
「そうだね」とだけ言った。
その返事に泣きそうになったけれど、
同時に、すごく静かな解放感もあった。
ああ、やっぱり、これは恋の終わりかもしれない。
でも、恋の終わりは、私の終わりじゃない。
私は、またちゃんと自分の気持ちと向き合えている。
それだけで、少しだけ自分を誇らしく思った。
恋が終わる予感と向き合う夜は、切ない。
でも、終わりを受け入れることは、
自分を裏切らないための優しさでもある。
大人になった今だからこそ、
終わりを恐れるよりも、
次の始まりを信じてみたい。
恋が終わる予感に泣いた夜。
それは、新しい恋に出会える自分を迎えに行く、
最初の夜だったのかもしれない。