夜中の2時に連絡しても、笑って応じてくれる。
誕生日は毎年欠かさずお祝いしてくれるし、落ち込んでるときは真っ先に駆けつけてくれる。
だけど、付き合ってはいない。
「なんでこの人と付き合わないの?」と聞かれても、うまく答えられない。
だって私たちは、恋人じゃないけど、特別なんだから。
友達以上、恋人未満。
そんな言葉で片づけられてきたこの関係には、実はもっと繊細で複雑なニュアンスが詰まっている。
身体の関係はない、でも心は通じてる。
嫉妬もするし、特別扱いされたらうれしい。
けれど「付き合おう」と口に出すことには、どちらかがなぜか躊躇する。
もしかすると、“恋人”というラベルを貼ってしまったら、壊れてしまいそうな儚さがあるのかもしれない。
名前がつかないからこそ保てる距離感。
曖昧さが、私たちのバランスを保っている。
でも、その曖昧さは時に、心のどこかをチクチクと刺してくる。
他の誰かと彼が楽しそうにしていたとき。
「友達だよ」と紹介されたとき。
心がザワつくのに、私はそれを口にする資格がないように感じる。
そんな“特別”は、愛と自由のあいだをさまよっている。
恋愛って、本来はラベルや肩書きじゃないはずなのに。
私たちはどこかで「恋人」という称号に安心したい。
所有じゃないと知っていても、「私だけの人」であってほしいと願ってしまう。
でも――。
もし彼が困ったときに真っ先に私を頼ってくれるなら。
もし私が泣きそうな夜、彼がただ黙って隣にいてくれるなら。
それが“恋人”という言葉で表現できなくても、愛のひとつの形だと思いたい。
だけどやっぱり、ふとした瞬間に思ってしまう。
この関係に、名前がついていたらどんなに楽だろうって。
名前がない関係は、時に不安を生む。
関係性にルールがないから、境界線も曖昧で、どこまで踏み込んでいいのか迷ってしまう。
けれど、名前がない関係だからこそ、見せられる顔もある。
恋人ではないからこそ、素直になれる瞬間もある。
「このままでいいの?」と自問しながら、
「このままがいいのかも」と思ってしまう夜もある。
私たちは、確かな名前を持たない関係の中で、
確かな“特別”を感じている。
もしかしたらそれは、誰よりも近くて、誰よりも遠い、
“今しか成立しない愛”なのかもしれない。
それが悲しいときもあるけれど、愛しいと思える瞬間もある。
だから今日も私は、この関係をそっと大切にしながら、
名前のないページを、心の中に綴っていく。