「一緒に住もうか」
その言葉が嬉しかったのは、ほんの数秒だった。
引っ越しの段ボールを開けながら私は、
“これって、結婚の前段階?”とドキドキしていた。
キッチンに2人分のマグカップ、並んだ歯ブラシ、
そして冷蔵庫には、私が作りすぎた豚汁。
始まりは、ちょっとした“仮住まい”のつもりだった。
でも、気づけば1年。
“仮”のはずが“恒常”になっていくスピードは、
炊飯器の予約ボタンよりもずっと静かで、じわじわと心を締めつけてくる。
同棲に期限なんて、普通ないのかもしれない。
だけど、「結婚を見据えてるよね?」っていう期待が、
女性側にだけ貼りついてしまうこの不思議な不平等。
友人に話すときだって、
「同棲してるってことは、そろそろ?」って聞かれるたびに、
曖昧に笑ってごまかす自分がいる。
私だってそう思ってた。
同棲って、結婚の前段階だと。
でも彼は、“同棲=ゴール”だと思っていた。
そこに違和感が生まれるのは、時間の問題だった。
ある夜、寝る前の静けさの中で、ぽつりと聞いてみた。
「この先、どうするの?」
彼はスマホを見ながら、「どうって?」と返してきた。
それだけで、私は答えがわかった気がした。
たぶん、彼にとっては今がちょうどいい。
自由で、責任がなくて、居心地がいい。
私が夕飯を作って、洗濯を回して、
生活を心地よく整えてくれるから、
このままが、きっとベストなんだろう。
でも、私にとっては、“このまま”がいちばんこわい。
未来が見えない関係は、
愛していても、前に進めない。
愛していることと、未来があることは、
残念ながら、イコールじゃない。
「今が幸せなら、それでいいじゃん」
という彼のセリフが、
最初はロマンチックに聞こえたのに、
今では言い訳みたいに感じてしまうのはなぜだろう。
女性は、“幸せ”と“将来性”のバランスをいつも天秤にかけている。
特に30代に差しかかると、
その天秤は「時間」という重りで、傾き始める。
私の中の“心地よさ”と“焦り”がせめぎあう夜。
彼は隣でぐっすり眠っていて、
私はひとり、月明かりの中で「どうしよう」と考えている。
期限がないって、自由である反面、残酷でもある。
契約の終わりが決まっているレンタル彼氏のほうが、
ある意味誠実なんじゃないかとさえ思えてくる。
同棲には、更新日も保証書もない。
だからこそ、“気づけば10年選手”なんてこともある。
だけど、心にはちゃんと“賞味期限”がある。
愛されてる自信がなくなる日もあるし、
「この人は私とどうなりたいんだろう」って疑問が、
毎晩寝る前に頭の中をループする夜もある。
それでも私は、結婚を迫りたいわけじゃない。
「いつプロポーズしてくれるの?」なんて聞くのも違う。
ただ知りたいのは、私たちに“未来の形”はあるのかどうか。
彼がこのままの関係を望んでいるのなら、
私が何かを変えるしかないのかもしれない。
でも、できれば、
「この先も一緒にいたい」と口にしてほしい。
それが“結婚”という言葉じゃなくても、
“私を人生に組み込む意思”を感じたいだけ。
恋愛も、同棲も、ずっと曖昧なままじゃ苦しくなる。
だから私は、今日こそ問いかけようと思う。
「ねえ、私たちって、どこに向かってるの?」
返ってくる答えがどんなものであれ、
きっと私はそれを受け止める準備ができている。
不安な夜を何度も越えて、
自分の気持ちとちゃんと向き合った今なら。
たとえ終わりが来たとしても、
それは“失敗”じゃない。
“ちゃんと愛して、ちゃんと考えた”という、
私の恋の証だと思うから。
そして何より大切なのは、
相手の答えよりも、自分が何を望んでいるかに正直であること。
期限がない関係でも、
自分の気持ちに“リミット”を設ける勇気が、
女性をもっと自由にしてくれる。