― 本当は、あの夜、気づいていた。
「…ごめん、今日は無理かも」
彼から届いたLINEには、気遣うような言葉と、絵文字。
でも、私は知っていた。
その“無理”の理由に、私ではない誰かが関わっていることを。
それでも責めなかった。
彼のことが、本当に好きだったから。
不安を抱えたまま、開けてしまった赤ワインのボトル。
今夜の一本は、ピノ・ノワール。
私たちが付き合いはじめた頃、ふたりでよく飲んでいた銘柄だった。
グラスに注ぐと、淡く澄んだルビー色。
フランボワーズやチェリーの甘酸っぱい香りに、土や紅茶のような深みが混ざる。
ひと口含むと、繊細でやわらかくて、でもどこか切ない。
まるで、いまの私の心そのものだった。
ピノ・ノワールは、気難しい品種だ。
育てるのが難しく、気候や土地に敏感で、繊細。
でも、うまく育ったときの味わいは、他には代えがたい複雑さと美しさを持つ。
彼との関係も、そんなふうだった。
不安定で、傷ついて、でも愛してしまう。
その夜、私はグラスを傾けながら、
思い出していた。
はじめて手をつないだとき。
旅行先で迷子になったときに、笑いながら歩いた夜道。
そして、彼が嘘をつくようになったあとの、自分の沈黙。
私は、彼の嘘に気づいていた。
でも、やさしいふりをして、自分をごまかしていた。
別れはまだ決めていない。
でも、このピノ・ノワールを飲み終えたら、
私は少しだけ、本当の気持ちを見つめてみようと思う。
“気づいていても、気づかないふりをした夜に”
ピノ・ノワール(繊細・赤ワイン)
- 【産地】フランス・ブルゴーニュ、カリフォルニア、ニュージーランドなど
- 【品種】ピノ・ノワール100%
- 【香り】赤系果実(ラズベリー、チェリー)、紅茶、土、スミレ
- 【味わい】軽やかでエレガント/酸味があり、タンニン控えめ
- 【相性】鴨のロースト、きのこ料理、豚肉のソテー、マグロのたたき
ピノ・ノワールは、恋の“繊細な部分”に触れてくれる赤ワイン。
うまく言葉にできない想いがある夜に、そっと寄り添ってくれる一本です。
嘘も、想いも、愛しさも。
ワインショップ LOIN(ロワン)では、
繊細な気持ちをほどくような赤ワインとの出会いを大切にしています。
ピノ・ノワールが教えてくれるのは、
感情のやわらかさと、許すという強さかもしれません。