夜の街を歩きながら、私は深呼吸をした。
この6年間、私は“誰かの奥さん”がいる男を、ずっと待ち続けていた。
「いつか君を迎えにいくから」
「子どもが大きくなったら、ちゃんとする」
その言葉を、私は何度信じただろう。
けれど、結局、彼が家を出ることはなかった。
彼と最後に会ったのは、1週間前。
ホテルの一室で、私は決意を告げた。
「もう、終わりにしよう」
彼は黙っていた。
そして、いつものように私の髪を撫で、
「わかった」と小さく呟いた。
その言葉に、私は涙すら出なかった。
(愛されてると思っていたのは、私だけだったんだ)
家に戻ると、部屋は妙に静かだった。
ソファの端に腰を下ろし、スマホを開いた。
SNSを開く気にもなれず、ただ指が無意識に「迷い占い」「不倫 別れ 後悔」と検索していた。
そのとき、偶然見つけたのが“電話占い”の文字だった。
(今さら、占いなんて……)
でも、どこかで“自分の選択が正しかったのか”誰かに肯定してほしかったのかもしれない。
思い切って、電話をかけた。
「こんばんは。…今夜は、少し心が疲れているみたいね」
占い師の声は、まるで昔から私を知っていたような、優しい声だった。
私が不倫をしていたこと、別れを決断したこと。
誰にも話せなかったことを、ぽつりぽつりと話すうちに、涙が溢れてきた。
「あなたは、ずっと愛を求めていただけ。
でも、“自分を大切にする”ことだけは、後回しにしないで」
「あなたがこれから出会う人は、ちゃんとあなたを“選ぶ”人よ」
その言葉に、私ははじめて――泣いた。
悔しさでも、寂しさでもない。
未来が、少しだけ明るく見えた気がした。
電話を切ったあと、スマホが震えた。
画面を見ると、見覚えのない名前からのメッセージ。
それは数年前、仕事で少しだけ関わった男性だった。
「久しぶり。今日、偶然、君の名前を見て懐かしくなって。
元気にしてる? よかったら、近いうちにお茶でもどう?」
――それは、新しい扉の音だった。
私は静かに、スマホを握りしめた。
未来は、まだわからない。
でも、自分を裏切らない恋があると、信じたい。
“別れ”のあとにくる夜に、誰かに寄り添ってほしいなら…
「この恋、終わらせてよかったのかな」
「私はちゃんと、前を向けているかな?」
そんな夜に、誰かの声を聞くだけで、
不思議と心が軽くなることがあります。
誰にも言えなかった恋の終わりに、優しい光を届けてくれる場所があります。