「…好きにさせたのは、そっちでしょ」
絞り出すように言ったその声は、自分でも驚くほど震えていた。
彼と出会ったのは、春先。
陽射しの柔らかい午後、職場のプロジェクトで一緒になった。
仕事の合間にくれる小さな気遣い、
たまに見せる少年のような笑顔、
「真面目すぎるよ」と私をからかう言葉。
それらすべてが、少しずつ私の中に落ちてきて、
いつの間にか、彼のことばかり考えるようになった。
でも、彼には恋人がいる。
それでも、私は引き返せなかった。
曖昧な関係が続いたまま、数ヶ月。
「付き合ってるってほどじゃないから」
「お前のほうが、ずっと気が合うと思ってた」
そんな言葉に、期待してしまった私がバカだった。
でも、どうしてもやめられなかった。
そして今日、彼からのLINE。
「やっぱり戻ることにした」
短く、冷たい言葉だった。
感情が抑えきれず、思わずかけたのは――
占い師の先生の電話だった。
いつか、ネットで見かけて気になっていた。
「恋愛の苦しさから抜け出したい人へ」と書かれた、その言葉に惹かれた。
受話器の向こうから、落ち着いた声が聞こえた。
「あなた、ずっと我慢してたんでしょう？」
「その涙は、あなたが誰かを傷つけたからじゃなくて、
自分を粗末に扱ってしまったことへの悔しさよ」
まるで、心の奥を覗かれているようだった。
「“好きにさせたくせに”って言いたくなるほど、あなたはちゃんと愛したの。
でも、あなたを好きになる価値が、彼にあったのかしら？」
私はその言葉に、ボロボロと泣いた。
自分を責めるのは、もうやめようと思った。
本当にダメなのは、「誰かを好きになった自分」じゃなくて、
「大切にされないことに慣れてしまっていた自分」だったのかもしれない。
数日後、駅前のカフェで1人、本を読んでいると、
ふと、あのときの占い師の声が頭に浮かんだ。
「恋愛は、“選ばれる”ことじゃないの。
“選ぶ力”を、あなたが取り戻すことなのよ」
今の私は、少しだけ、あの日より呼吸がしやすくなった気がする。
「どうして私ばかり、泣いてるんだろう」
そう思った夜、心を救ってくれたのは“誰にも言えない気持ち”を話せる場所でした。
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