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『ガメイと、始まらなかった恋』

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――もし、あのときあと一歩だけ踏み出せていたら。
私たちは“恋人”になれていたのだろうか。


彼との関係は、なんとなく始まって、なんとなく続いて、
そして――何も起きないまま、終わった。

職場のプロジェクトで2ヶ月だけ一緒になった。
ランチ、残業、駅までの帰り道。
彼はいつも自然体で、私にだけ少し優しかった。

でも「好き」とも「会いたい」とも、どちらも言わなかった。
“なんとなく好意”が、積み重なっていくだけだった。


「好きになるって、もっと劇的なものだと思ってた」
そう言ったのは私だったか、彼だったか。
どちらでもよかった。
私たちは、タイミングのすれ違いだけで終わった。


その夜、私は「Noir」で、ガメイを頼んだ。
あの人と一緒に飲んでみたかった、軽やかな赤。

🍇 ガメイ/産地:フランス・ボジョレー地方
明るくフルーティで、イチゴやチェリーの香り。
タンニンは穏やかで、少し冷やしても美味しい。
恋の“はじまり”に似た、優しくて軽いワイン。

グラスの赤が、なんだか青春の記憶みたいに鮮やかで、
私は思わずふふっと笑ってしまった。


「あの人と、恋人になってたら、どうなってたんだろう」
ふと口にした私に、マスターが言った。
「ガメイって、発酵も熟成も早いんですよ。すぐ飲める。
でも、その分…後味があっさりしている」

“深まる前に終わる恋”って、まさにそういう味かもしれない。


帰り際、彼からメッセージが届いていた。
「久しぶり。そっちは元気?」

たったそれだけ。
でも、心が揺れた。
きっと、私たちはまだ“恋”という名前をつけていない関係なんだ。

けれどもう、それに名前をつける意味もない。


たとえ恋にならなかったとしても、
あの春の日々は、やさしい赤として私の中に残っている。

始まらなかったからこそ、美しかった。
そう思える今の自分が、少しだけ好きになれた。


🫐あとがき:ガメイは、“恋の予感”のワイン

恋愛って、始まることがすべてじゃない。
言葉にならなかった気持ち、気づかれなかった優しさ、
踏み出さなかった一歩――そのすべてが、静かに心を温めることもある。

軽やかで、飲みやすくて、でも忘れられない。
そんなガメイのような想い、あなたにもありますか?

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