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『シャブリと、忘れられない言葉』

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――「きみは、まっすぐすぎるんだ」
あのときの彼の声だけが、今でもずっと胸に残っている。


彼と付き合っていたのは、もう6年前になる。
私は26歳、彼は34歳。

恋に全力で、まっすぐで、相手に期待しすぎる私を、
彼はいつも優しく受け止めてくれた。

でも、
「そんなに全部見せられると、怖くなるんだよ」
と言われたあの日から、歯車は狂い始めた。


彼の家のキッチンで一緒に作ったパスタ。
休日の朝に買いに行ったバゲット。
ソファで観た古い映画。

全部、私にとっては“愛の証”だったのに、
彼にとっては、“生活”だったんだと思う。

そしてある日、別れ際の最後の会話。

「私、どうすればよかったの?」
「……たまには、期待しないで笑ってくれるだけでよかった」

その言葉が、
何よりも私の心を深く刺した。


今夜、久しぶりに訪れた「Noir」で頼んだのは、シャブリ。
心を静かに整えたくて、選んだ一本。

🥂 シャブリ/品種:シャルドネ/産地:フランス・ブルゴーニュ地方・シャブリ地区
石灰質の土壌から生まれる、キリッとしたミネラル感。
白い花、青リンゴ、レモンの香り。
清らかでまっすぐな味わいは、心をまっさらにしてくれるワイン。

グラスから立ちのぼる、冷たい香りに、胸の奥がじんわりと痛む。


マスターが静かに言った。
「シャブリを選ぶ方は、整理の途中にいる方が多いんです」
「整理、ですか?」
「はい。感情ではなく、自分自身を整えるために」

私は黙って頷いた。
過去の恋を、思い出に変えるには、シャブリのような時間が必要だった。


彼の言葉は、いまも胸に残っているけれど、
それを“痛み”ではなく“学び”に変える日が来ると信じてる。

まっすぐで、素直すぎた私を責めるのは、もうやめよう。
あの恋に全力だった私を、少しずつ好きになりたい。


グラスの底に残ったシャブリは、冷たくて澄んでいて、
まるで、もう一度始める勇気をくれる水のようだった。


🍋あとがき:シャブリは、自分を信じ直すワイン

“まっすぐすぎた恋”は、ときに痛い。
でも、それは誠実だった証拠。
期待して、ぶつかって、壊れても、
自分を偽らなかったなら、それは素敵な恋だったはず。

シャブリのように、余計なものを削ぎ落として、
あなたがあなたでいることを、そっと肯定できますように。

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