― 優しさに甘えていたのは、私だったのかもしれない。
別れ話をしたのは、秋が深まりはじめた夜だった。
空気が乾いて、少し冷たくなってきたせいか、
彼の言葉は思っていたよりもすんなり胸に染みこんでいった。
「…きみのこと、嫌いになれたらよかったのにね」
テーブルの上には、まだ口をつけていないグラスが2つ。
開けたばかりのピノ・ノワールは、明るいルビー色のまま、静かにそこにあった。
私たちは、恋人というより“長く続いてしまった関係”だったのだと思う。
好きだったのは、たしか。
けれどその「好き」は、いつしか惰性にすり替わって、
優しさという名の逃げ道にしていた気がする。
彼はいつも私の言い訳を許してくれた。
私も、彼の優しさにすがることで、自分を守っていた。
「きっと大丈夫」って言われるたび、私は、何も決断しなくて済んだ。
でも、大丈夫じゃないと気づいたときには、
この関係はもう、どこにも進めなくなっていた。
ピノ・ノワールは、不思議なワインだ。
軽やかで繊細。けれど、どこか芯があって、複雑さを秘めている。
まるで、本当は壊れかけている関係を、それでも守ろうとしていた自分のようだった。
グラスを傾けると、赤い果実の香りがふわりと広がった。
チェリー、ラズベリー、かすかなスパイス。
口に含むとやわらかく、するりと喉を通る。
でも、その後に残るわずかな苦みが、何かを思い出させた。
ーー優しさの中に隠した、本音の苦み。
「もう、戻らないほうがいいと思うよ」
彼がそう言ったとき、私はうなずいた。
それが正しいと、ようやくわかったから。
静かに、グラスを合わせた。
「さようなら」の代わりに。
“優しさの裏にある本音”を感じる1本
ブルゴーニュ ピノ・ノワール(ライトボディ・赤ワイン)
- 【産地】フランス・ブルゴーニュ地方
- 【品種】ピノ・ノワール
- 【香り】チェリー、ラズベリー、シナモン、土や葉のニュアンス
- 【味わい】軽やかで繊細。タンニンはやわらかく、優しい口当たり
- 【相性】鴨肉、キノコのリゾット、豚しゃぶ、繊細な和食とも好相性
初心者でも飲みやすい赤ワインの代表格。
繊細さの中に、余韻が静かに残る一本です。
どこかで、やさしく終わりたい夜に
LOIN(ワインショップ ロワン)では、
こうした“軽やかだけど深い”ワインも、初心者向けに紹介されています。
今夜、誰かとの距離を見つめ直したいとき。
そっと寄り添ってくれる1本が、ここにあります。
