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第4話『アマローネと、もう戻れない夜』

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― 好きになってはいけなかった。それでも、どうしようもなく惹かれた。


その夜、私は彼の部屋にいた。

大人になってからの恋は、いつだって正しさと罪悪感がセットだった。
既婚者の彼とは、たった数ヶ月の関係。
それでも、本気で惹かれてしまったのは、私の方だった。

「もう、会えない方がいいと思う」
私がそう言うと、彼はただ黙ってワインの栓を抜いた。

グラスに注がれたのは、濃く深いルビー色。
開けたばかりのアマローネだった。


アマローネは、イタリア・ヴェネト州で造られる重厚な赤ワイン。
陰干ししたぶどうを使って造ることで、凝縮感のある甘みと深いコクが生まれる。
“王のワイン”とも呼ばれるその味わいは、
どこか危うく、抗えない魅力を持っている。

まるで、彼のようだった。


グラスを傾けるたびに香るのは、ブラックチェリー、レーズン、シナモン、チョコレート。
口に含むと、丸みのある果実味とわずかなビターさが、
複雑に絡み合っていく。

甘さのあとにくる苦み。
一瞬のやさしさのあとに残る罪悪感。
それらが渦を巻くように私の中で広がった。

私はこの恋を、ずっと“ないこと”にしてきた。
未来も、言い訳も、求めなかった。
ただ、会えるときに会って、
一緒に食事をして、ワインを飲んで、眠る。

それだけでよかった。

だけど、
“それだけ”でよかったと本当に思えていたのは、
最初のうちだけだった。


「今夜が、最後にしよう」
私の言葉に、彼はうなずいた。

グラスの中のアマローネは、
まるで永遠に終わらない夜のように、
深く、重く、私たちの沈黙を包みこんでいた。


どんなに美しい味でも、
正しくない恋は、最後に苦みだけを残していく。

それでも、
このアマローネのような濃厚な夜を、
私はきっと、どこかでまた思い出してしまうのだと思う。


“濃厚な記憶”に寄り添う一本

アマローネ・デッラ・ヴァルポリチェッラ(フルボディ・赤ワイン)

  • 【産地】イタリア・ヴェネト州
  • 【品種】コルヴィーナ、ロンディネッラ、モリナーラなど
  • 【香り】レーズン、ドライチェリー、チョコレート、リコリス、シナモン
  • 【味わい】濃厚な果実味/甘みと苦みが同居する複雑な味わい
  • 【相性】熟成チーズ、ビーフシチュー、チョコレート、ナッツなどと好相性

陰干しされたぶどうの深い甘みと、
飲み応えある重厚さが、忘れがたい夜にぴったりの一本。


終わらせたい恋がある夜に

LOIN(ワインショップ ロワン)では、
気持ちに寄り添う一本を、丁寧に選ぶことができます。

強く惹かれた人との記憶を、
ワインという形でそっと心に閉じ込めてみるのも、ひとつの癒しです。

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