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第1話『リースリングと、忘れられないやさしさ』

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― 甘さの奥にある痛み。それでも思い出す、あのぬくもり。


雨が降ると、彼を思い出す。

別れてから、もう2年になる。
彼は今、どこで何をしているのだろう。

まだ一緒にいた頃、寒い日に彼が作ってくれたアップルパイ。
湯気の向こうに浮かぶ彼の横顔と、甘いシナモンの香り。
あのやさしさを、私はまだ、忘れられずにいる。


この夜、ふと思い立って開けたのは、ドイツのリースリングだった。
軽やかで、少し甘くて、どこか懐かしい。

グラスから立ちのぼるのは、青リンゴやハチミツのような香り。
口に含むと、果実のやさしい甘さと爽やかな酸味が広がる。

飲み進めるたびに、あの頃の記憶が浮かんでは消えていった。


リースリングは、とても誠実なワインだと思う。

香りは華やか。でも決して押しつけがましくなく、
口当たりもやさしく、すっと心に馴染む。
どんな料理とも寄り添えるのに、自分の輪郭を失わない。

まるで、あの人のようだった。
私を責めることなく、ただそばにいてくれた。

あのとき、私がちゃんと向き合っていれば。
そう思うけれど、もう遅い。


静かにグラスを置く。
雨音がやけに優しく響く夜だった。

やさしさは、失ってから気づくもの。
そして時に、その記憶はワインのように長く、甘く、胸に残る。


“甘さの奥に痛みを抱く”ような一本

ドイツ・モーゼル リースリング(やや甘口・白ワイン)

  • 【産地】ドイツ・モーゼル地方
  • 【品種】リースリング100%
  • 【香り】青リンゴ、白桃、ハチミツ、レモン、白い花
  • 【味わい】やや甘口/酸味が美しく、後味はすっきり
  • 【相性】白身魚、鶏肉のレモンソース、アジア料理、フルーツタルト

ほんのり甘く、それでいて切なさも感じさせるリースリングは、
記憶と静かに向き合いたい夜にぴったりです。


雨の日、やさしさに触れたい夜に

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