スマホの画面に浮かんだ「既読」の文字。
その横に、ずっと変わらない沈黙の空白。
返事が来ないだけで、こんなに心がざわつくなんて。
「また、やっちゃったかな…」
咲（さき）はソファにうずくまりながら、
たった一通のメッセージを何度も読み返していた。
——「今日は、楽しかったね。またね。」
彼からの返信は3日前。
それ以来、彼のSNSには仕事や友人との投稿が増えていたけれど、
咲には、何もなかった。
まるで、自分だけが置いていかれてるみたいだった。
本当は、わかってる。
彼の返信が遅いのは、いつものこと。
だけど、会ったときの優しさや目線が忘れられなくて、
“脈アリ”だったんじゃないかって、期待してしまう。
そんな咲の心は、まるで海辺に置き去りにされた貝殻のようだった。
誰にも触れられず、じっと波を待ってる。
でも、その夜は違った。
いつものようにSNSを何気なく見ていたとき、
ある広告がふと目に留まった。
「恋愛に悩んだら、誰にも言えない気持ちを、プロに聞いてもらいませんか？」
電話占い——
正直、今まで興味なんてなかった。
でも、誰にも言えなかったこの“もやもや”を、
どこかに預けたくなった。
数分後、咲はスマホ越しに、
落ち着いた女性の声を聞いていた。
「はじめまして、沙羅（さら）と申します。今日はどうされましたか？」
咲は戸惑いながらも、自分のことをぽつぽつと語った。
彼との出会い、デート、既読スルー。
そして、自分でも持て余している不安の正体を。
沙羅は、彼の名前と生年月日を聞いたあと、
カードを切る音だけが静かに流れた。
数秒の沈黙のあと、沙羅が言った。
「彼は、今ちょっとだけ“自分の時間”に逃げ込んでいます。
あなたに対して興味がないわけではありません。
ただ、彼は“心の距離”をつかむのが、少し苦手な人なんです。」
咲の胸が、少しだけ緩んだ。
「今は、あなたのほうから追いすぎないことが大切。
彼にとって“ほっとできる存在”であることが、
関係をつなぐ鍵になりますよ」
その言葉を聞いた瞬間、
涙が、ぽろっと落ちた。
「……ありがとう。誰にも言えなかったから、
ただ聞いてもらえて、すごく救われました。」
電話を切ったあと、咲はしばらく天井を見上げていた。
不安が消えたわけじゃない。
でも、誰かに気持ちを言葉にして届けたことで、
自分自身が少し、整った気がした。
翌朝。
咲はスマホを開いて驚いた。
——「おはよう。最近忙しくてごめんね。また会えるの楽しみにしてる。」
彼からの返信は、優しい絵文字付きで届いていた。
その瞬間、咲はふっと笑った。
占いが“未来を変えた”わけじゃない。
でも、“自分の気持ちの向き合い方”を、確かに変えてくれた。
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