第5話:「私は、変われるの?」
― ヒーリング編 ―
「もう、疲れた」
美月(みづき)は思わず、椅子から立ち上がり、窓の外に目を向けた。
外は薄曇り、空がどこか沈んで見える。
心の中も、なんとなく沈んだままだった。
仕事は忙しく、家に帰ると自分の時間も持てない。
疲れがたまっているのはわかっている。
でも、それだけじゃない。
「どうして、こんなに上手くいかないんだろう」
人間関係も、恋愛も、そして自分の心も、すべてがうまくかみ合わない気がしていた。
どんなに努力しても、足りない気がする。
毎日がモヤモヤと過ぎていく。
「変わりたい」──その気持ちだけが、ずっと心の中にあった。
◆
そんな時、美月はふと目にした広告を見て、電話ヒーリングに申し込んでみることにした。
「心のブロックを解放し、あなたを本来の自分へと導きます」と書かれている。
ヒーリング──それは、これまであまり経験したことがないジャンルだった。
でも、今の自分を変えたくて、何かを試してみたかった。
◆
電話をかけると、穏やかな女性の声が耳に届いた。
「こんにちは、美月さん。お悩みをお聞かせください」
「こんにちは。最近、何をしても心が晴れなくて……。
仕事でも恋愛でも、自分に自信が持てなくて。
なんか、ずっとモヤモヤしてるんです」
「わかります。心がモヤモヤしているときは、自分の中に“ブロック”があることが多いです。
今日は、そのブロックを解放するお手伝いをさせていただきますね」
美月は、電話越しにヒーリングを受ける準備を整える。
「では、リラックスして深呼吸をしましょう。目を閉じて、深く息を吸い、ゆっくりと吐きます」
美月は、静かな部屋の中で目を閉じ、深く息を吸う。
その度に、心の中が少しずつ軽くなるのを感じた。
「では、心のブロックを一つずつ解放していきますね」
◆
ヒーリングが始まると、女性の声はさらに穏やかになり、温かさを感じるようになった。
彼女の言葉に合わせて、美月は心の中で、過去の記憶や感情をゆっくりと振り返った。
「最初に現れるのは、小さい頃の自分です。
あなたが無力だと感じた瞬間、誰かに傷つけられた瞬間。
その痛みが、今でも心の中に残っていませんか?」
その一言で、思わず目頭が熱くなった。
小さい頃から、家族や学校で感じていた「できない自分」を、ずっと抱えていたことを思い出す。
「そう……でも、あの時の自分は、今の私を作ってくれた大切な部分でもあります。
その痛みを受け入れて、前に進んできたんですよね」
「その通りです。過去の痛みを解放することで、あなたのエネルギーは自由になります。
そして、新しい自分に向かって、変わることができるんです」
美月は、深く息を吐きながら、自分の中で何かが解けていく感覚を覚えた。
胸のあたりが温かくなり、何もかもが軽くなったような気がする。
◆
ヒーリングが終わると、女性の声は優しく語りかけた。
「美月さん、あなたは今、とても大きな変化を迎えています。
心の中にあったブロックは、すべて解放されました。
今後は、もっと自分を大切にし、心の声に耳を傾けてくださいね」
「……変わることができるんですね」
「もちろんです。自分を信じることが、変わるための第一歩です。
今、あなたは新しい自分を受け入れる準備ができています」
電話を切った後、美月はしばらくそのままでいた。
目の前の世界が、少しだけ明るく感じた。
◆
翌日、美月は仕事で上司に褒められた。
今までだったら、素直に喜ぶことができなかっただろう。
でも今日は、違った。
「ありがとう、これからも頑張ります」
その言葉は、心から出たものだった。
そして、帰り道にふと気づいた。
彼との関係にも、以前とは違う心の余裕ができていた。
✨編集後記
ヒーリングは、心の奥にある“隠れたエネルギー”にアクセスし、解放する手助けをしてくれるものです。
ブロックを解放することで、自分の本当の気持ちと向き合い、自由に生きる力を取り戻すことができます。
心のケアをすることで、変わりたい自分を手に入れることができるのです。
