第9話:「私、まだ諦めきれない」
― 易占い編 ―
「どうして、あんなに簡単に終わってしまったんだろう」
沙織(さおり)は、携帯の画面をぼんやりと見つめていた。
彼との関係が終わってから、もう何ヶ月も経っていたのに、心の中にまだ、あの人の存在が大きく残っていた。
彼とは、突然に別れを告げられた。
その理由を尋ねても、彼の口から出てきたのは曖昧な言葉ばかり。
「これ以上は無理だ」と言われても、納得がいかないままだった。
「こんなに好きだったのに、どうして…?」
彼のことをまだ好きで、どうしても諦めきれない自分がいた。
「復縁する方法はないのか?」
心の中でずっとそう考えていた。
◆
ある日、ふと目にした「易占い」の広告が目に入った。
「あなたの未来、今の状況がどうなるのかを易占いで読み解きます」という文言が、心に響いた。
「もしかしたら、私の悩みを解消してくれるかもしれない」
沙織はその瞬間、直感的に占いを試してみることに決めた。
「少しでも前に進むヒントが欲しい」と思った。
◆
電話がかかり、穏やかな男性の声が沙織を迎えた。
「こんにちは、沙織さん。今日は易占いで、あなたの未来についてお話しさせていただきますね。
まず、あなたの現在の状況を簡単にお聞きしてもいいですか?」
沙織は少し躊躇したが、ゆっくりと口を開いた。
「実は、彼との関係が突然終わってしまって、ずっとそのことで悩んでいるんです。
どうしても諦めきれなくて、復縁をしたいと思っています。でも、今どうすればいいのか全くわからなくて」
占い師はしばらく沈黙を保ち、次にこう言った。
「それでは、沙織さんの状況を易占いで見てみますね。少しお待ちください」
◆
占い師が静かな声で、易占いのリーディングを始めた。
「今、沙織さんの手のひらを見てみますね。あなたの心の中に、強い未練が残っています。
でも、その未練があなたを前に進ませる力にもなるんですよ」
沙織はその言葉にドキリとした。
未練が力になる――その言葉に、少しだけ希望を感じた。
「沙織さん、今、あなたに必要なのは“変化”です。
過去を引きずるだけではなく、前に進むための一歩を踏み出さなければなりません」
「でも、どうしても彼のことが気になって仕方がないんです。
本当に諦めるべきなのか、復縁の可能性があるのか、全くわからなくて…」
占い師は優しく答えた。
「彼との復縁は、現状では難しいかもしれません。でも、それが悪いことだとは限りません。
復縁を望む気持ちは理解できますが、今の沙織さんには新たな方向性を見つけることが必要です。
あなたに必要なのは、未来を信じる力と、自分を大切にする心です」
◆
「自分を大切にする心…」
沙織はその言葉を噛みしめるように心の中で繰り返した。
占い師は続けた。
「易占いで示されたのは、沙織さんが今後進むべき方向性です。
今は変化の時期。過去に固執せず、新しい選択肢に目を向けることが、あなたを次のステップへと導きます。
過去の恋愛を背負っている限り、前に進むことはできません。彼との関係が終わったことで、次の出会いが待っていることを信じてみてください」
「…次の出会い?」
「はい。沙織さんには、もう一度自分の気持ちを整理することが求められています。
今、必要なのは“心の整理”です。復縁を望む気持ちは理解できますが、今の自分が何を求めているのかを見つめ直してください」
沙織は目を閉じ、深呼吸をした。
占い師の言葉は、少しずつ心に染み込んでいくようだった。
◆
電話が終わり、沙織はしばらくその場で動けなかった。
占い師が言ったことが、確かに自分に必要な言葉だった。
「彼とのことが全てではない。自分を大切にして、新たな道を歩んでいかなければ…」
それが今の自分に必要なことだと、ようやく感じることができた。
その日、沙織は彼に最後のメッセージを送った。
「これまでありがとう。私はもう、前に進みます」
それを送った後、少しだけ心が軽くなったような気がした。
✨編集後記
易占いは、過去や現在の状況を読み解き、未来に向けて進む道を示してくれます。
時には過去を手放し、新たなスタートを切ることが必要です。
自分を大切にし、未来に向けて心の整理をすることで、迷いを乗り越える力を得ることができます。
