── 《「傘の下で、咲いた約束。」》の続編スピンオフ③
あれから、彼とは連絡を絶った。
「好き」って何だったのか分からなくなって、
髪を乾かしながら泣いた夜が何度もあった。
でも、私は少しずつ立ち直った。
R&Aヘアミルク Nを髪に馴染ませるたび、ふわっと香るローズとアプリコットが、
「もう大丈夫」って囁いてくれてるようだった。
春の風がやわらかくなった頃、
新しいプロジェクトで出会ったのが──椎名さんだった。
穏やかな目をした人だった。
たくさん話すタイプじゃないけれど、
資料を渡すときに「ありがとう」とちゃんと目を見て言う人だった。
「その香り、いいですね」
ある日ぽつんと、そんな言葉をくれた。
「ローズとアプリコットなんです。髪の…ミルク。」
そのとき、少しだけ心が揺れた。
でも。
彼のスマホに映った画面。
誰かとのメッセージ。
「今日も、会えるよね？」
──また、私だけが一歩踏み込もうとしてる？
心に警戒音が鳴る。
気づいたら、スマホを開いていた。
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前に助けてもらった、あの優しい声を思い出す。
すぐに、つながった。
「あなたの心、今とても揺れているのが視えます。
でも……彼は前の彼とは違います。
ただ、もう一人、あなたに未練を残した人の“気配”が、まだ周囲に残っています。」
「え……？」
「“あの人”が完全に手放せていないのは、あなたの中かもしれません。」
ハッとした。
私はまだ、“あの人”に許されようとしていたのかもしれない。
新しい人との出会いを、過去の痛みで測ろうとしていたのかもしれない。
夜、椎名さんからLINEが来た。
《今度、ちゃんとご飯でも行きませんか？
あなたのこと、少しずつ知りたいです。》
その文を見て、スマホを握りしめた。
香りが残る髪を撫でる。
私は今、過去を手放すタイミングにいる。
この恋がまた裏切りに終わるかもしれない。
でも、それを恐れてばかりじゃ、何も始まらない。
「いいですよ」
そう返信するとき、私は少しだけ笑っていた。
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まとまりと潤いが続くから、自信を持って新しい一歩を踏み出せる。
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