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第4話『アマローネと、もう戻れない夜』

― 好きになってはいけなかった。それでも、どうしようもなく惹かれた。その夜、私は彼の部屋にいた。大人になってからの恋は、いつだって正しさと罪悪感がセットだった。既婚者の彼とは、たった数ヶ月の関係。それでも、本気で惹かれてしまったのは、私の方...
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第3話『クレマンと、ささやかな幸せ』

― 特別じゃなくていい。笑って乾杯できる夜が、いちばん尊い。誕生日でも記念日でもない、ただの金曜日。仕事帰りの彼と、待ち合わせしてスーパーで買った食材と、ロワンで選んだクレマン。帰り道、「冷蔵庫にあるアボカド、今日こそ食べよう」と笑った彼の...
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第2話『ピノ・ノワールと、手放せなかった夜』

― 優しさに甘えていたのは、私だったのかもしれない。別れ話をしたのは、秋が深まりはじめた夜だった。空気が乾いて、少し冷たくなってきたせいか、彼の言葉は思っていたよりもすんなり胸に染みこんでいった。「…きみのこと、嫌いになれたらよかったのにね...
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第1話『リースリングと、甘すぎた恋のあとで』

― ほんのり甘くて、あとから来る酸味。それはまるで、あの恋のようだった。彼と別れた夜、私はひとりでワインを開けた。泣きながらとか、怒りながらではなく、ただ静かに。たとえば、今日がいつも通り終わったことを確認するように、まるで、日常のなかに彼...
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『テンプラニーリョと、秋風の再会』

――もう二度と会うことはないと思っていた。でもあの風が、あなたの名前を運んできた。10月のはじめ、街路樹の色がほんのり紅くなり始めた頃。会社帰りにふらりと立ち寄った駅ナカのカフェで、彼に再会した。4年前に別れた元恋人。理由は“価値観の違い”...
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『シャブリと、忘れられない言葉』

――「きみは、まっすぐすぎるんだ」あのときの彼の声だけが、今でもずっと胸に残っている。彼と付き合っていたのは、もう6年前になる。私は26歳、彼は34歳。恋に全力で、まっすぐで、相手に期待しすぎる私を、彼はいつも優しく受け止めてくれた。でも、...
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『ガメイと、始まらなかった恋』

――もし、あのときあと一歩だけ踏み出せていたら。私たちは“恋人”になれていたのだろうか。彼との関係は、なんとなく始まって、なんとなく続いて、そして――何も起きないまま、終わった。職場のプロジェクトで2ヶ月だけ一緒になった。ランチ、残業、駅ま...
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『夜のワインは、恋の代わりに。』スピンオフ

《リースリングと、遠距離の約束》――「距離は関係ないよ」その言葉が、一番遠くに感じたのは私だった。彼と出会ったのは、2年前の夏。ドイツ旅行で立ち寄った、ライン川沿いのワイナリー。同じツアーにいた彼は、日本人だけどベルリンに赴任中で、旅の最後...
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『シャンパーニュと、愛してはいけない人』

――乾杯したその瞬間、わたしたちはもう、嘘をついていた。彼とは、友達の結婚式で出会った。ハウスウェディングの開放的なガーデン、キラキラした新郎新婦、そして手にしていたのは、祝福のスパークリング――シャンパーニュだった。「君の笑顔に、泡が似合...
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『バローロと、決別の夜に』

――「今さら別れられるわけがない」それを一番思っていたのは、他でもない私だった。彼と出会ったのは28歳の冬。職場での立場も安定しはじめて、結婚なんてまだ先でいい、と思っていた頃。彼は10歳年上の経営者。初めて一緒に行ったレストランで、赤ワイ...