「ちょっと、いいな…」が、どんどん大きくなっていった
結衣(ゆい)は職場の同期・海斗に、いつの間にか惹かれていた。
最初はただの同僚。たまに話すくらいだったのに、
会話のテンポや笑いのツボ、何より仕事に真剣な横顔に、自然と心が惹きつけられていった。
彼のことを考える時間が、少しずつ増えていった。
だけど──。
その想いが“恋”だと確信した頃、海斗に恋人ができたという噂を聞いた。
「……遅かったんだ、私」
その瞬間、頭が真っ白になった。
「好きな人の“幸せ”を喜べない私って、最低なのかな」
海斗の彼女は、同じ部署の先輩。
気さくで明るくて、誰からも好かれるような女性だった。
そんなふたりが並んで歩いているのを見て、結衣は胸が締めつけられた。
「似合ってるな、って思っちゃった」
でも、心の奥では別の気持ちがざわついていた。
「私じゃダメだったのかな」
「もっと早く気づいていたら、何か違ったのかな」
「彼女に勝てるところ、私にあったかな」
自分の価値がどんどん揺らいでいった。
「その恋は、終わっていませんよ」
どうしようもなく苦しくなって、結衣は電話占いに頼った。
電話の向こうにいたのは、優しい声の占い師・月乃(つきの)先生。
事情を話すと、先生はゆっくりと語り始めた。
「結衣さん、その恋は“まだ終わっていません”。
今、彼には恋人がいるけれど、それはあなたの気持ちに蓋をする理由にはならない」
「でも……もう彼には、好きな人がいるんです。私が勝手に想ってただけで」
「“勝手”な恋なんて、この世にありません。
恋は、感じてしまった瞬間からあなたの“真実”なんです」
その言葉に、涙があふれた。
“好き”を手放す必要なんて、どこにもなかった
「彼には、今の彼女に対して“安心感”はあるけど、“ときめき”はやや薄れています」
「えっ?」
「安心感で始まった関係は、安定はするけれど、刺激には欠けることがあるの。
でも結衣さんには、“ときめき”と“刺激”があるんですよ。
彼も、あなたのことを少しずつ“特別”だと感じていたみたいですね」
「……私のことを?」
「うん。恋人ができる前、彼はあなたに気持ちが傾いていた時期がありました。
でもそのとき結衣さんが動かなかったから、彼は“振り向かれないなら”と諦めた可能性が高いです」
あの時、あと一歩の勇気を出せていたら──
そう思うと、後悔がにじんだ。
でも、同時に希望の光も見えた。

恋は“奪う”ものじゃなく、“気づかせる”もの
「今からでも、間に合いますか?」
結衣の問いに、月乃先生はこう答えた。
「もちろんです。彼があなたに“恋愛対象としてのときめき”を感じる瞬間を、少しずつ増やしていけばいいんです」
「でも、それって彼女がいる人に近づくってことになりませんか…?」
「大丈夫。“奪う”んじゃないの。
“気づかせる”んです。あなたが、彼にとっていかに自然で、心が安らぐ存在かを」
「……私にできること、ありますか?」
「まずは、彼に“異性としての魅力”を思い出してもらえるような距離感を大切にしてみましょう。
笑顔、仕草、話すトーン……恋は、小さな“違和感”から始まります」
変わるのは、彼じゃなくて“自分”
そのアドバイスをもとに、結衣は少しずつ行動を変えていった。
・笑顔で挨拶し、彼の目をしっかり見て話す
・仕事でも頼られる場面を意識し、信頼を築く
・共通の趣味や会話で、“居心地の良さ”を共有する
数週間後──海斗から、ふとこんな言葉が漏れた。
「最近、なんか結衣といると落ち着くんだよね」
心が跳ね上がった。
その夜、海斗のSNSには、彼女との投稿が一つもなくなっていた。
片想いの相手に恋人ができたあなたへ
・“今の恋人”は、あなたの恋が終わる理由にはならない
・片想いは、“想う力”が強いからこそ可能性を動かせる
・占いは、相手の気持ちを“可視化”するサポートになる
好きになった相手に恋人がいる──
それは確かに、苦しくて切ない現実かもしれない。
でもそれは、“今のあなた”のままで終わる恋ではないかもしれない。
少しずつ、自分を整えて、伝え方を変えて、
そして相手の心に、あなたの存在を“改めて届ける”。
それが、片想いから“両想い”へと変わる道なのかもしれない。
