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「毒を抱いて眠る」

ココナラ電話占い 恋愛

第4話:本命の証明

「ねえ、私って“何番目”?」

そう言いかけて、私は言葉を飲み込んだ。

そんなことを聞いたところで、彼は絶対に答えない。

ううん、もしかしたら、ちゃんと「一番だよ」って言ってくれるのかもしれない。

でも、そんなの――信じられない。

彼のスマホに浮かんだ“カナコ”という名前が、私の胸の奥をじわじわと焦がしていた。

それでも私は、いつも通りの顔をして彼のコーヒーにミルクを入れる。

ブラックしか飲まない彼の癖も、好みも、眠りにつく時間も、私は誰よりも知っている自信があった。

だけど「私だけが知ってる」と思っていたものが、もし他の誰かと共有されているのだとしたら?

私はいったい、彼の中のどこにいるのだろう。

「好きだよ」

不意にそう言われた。

後ろから腕が伸びて、腰を引き寄せられる。

唇がうなじに触れる。その感触を、私は無理に受け入れた。

甘くて、でもどこか空虚。

「好き」の重さが軽すぎて、私の心はどんどん深く沈んでいく。

「……じゃあさ」

意識しないふりをして、私は聞いた。

「もし、私が突然いなくなったらどうする?」

彼は少し黙ってから、「困るな」とだけ答えた。

困る、ってなに?

寂しい、とかじゃないの?

探す、とか、泣く、とか、狂うくらい愛してくれてるんじゃないの?

言葉が足りないのは、きっと愛が足りないから。

その夜、私は自分の存在を彼に刻みつけるように、いつもよりわざと甘えた声を出した。

何度も名前を呼び、何度も抱きしめて、何度も問いかける。

「ねえ、ほんとうに私だけ?」

彼は何も答えなかった。ただ、背中を撫でるだけ。

答えのない優しさが、いちばん残酷だった。

「毒を抱いて眠る」

第5話:もう一人の私

そのメッセージは、何の前触れもなく届いた。

見知らぬアカウント、名前も写真もない匿名の送信者。

だけど、その文面には私の名前と、彼の名前がしっかり記されていた。

「あなたの彼、私の彼でもあるのかもしれません」

一瞬、心臓の音が止まったような気がした。

どうして、こういう時に限って、彼は隣にいないのだろう。

どうして、あんなにも私を求めていたくせに、今日に限って、既読すらつかない。

私は震える手でスマホを握りしめながら、何度も読み返した。

「誰なの?」

そう返信しようとした指が止まる。

怖かった。

この先にあるものが、どんな傷になるか分かっているから。

でも、知りたかった。

知らなければ、ずっと愛し続けてしまう自分が、もっと怖かった。

「会えませんか?」

私の指は、まるで誰かに操られるようにそう打っていた。

ほんの数秒後、「はい」という返事が届いた。

冷静に考えれば、会わないほうがいい。

見て見ぬふりをすれば、彼との日々はまだ続く。

でも――私はこの愛が本物かどうか、確かめずにはいられなかった。

数日後、私はその“彼女”と会った。

カフェの隅の席。

そこにいたのは、私と似た空気を纏った、柔らかくて哀しそうな目をした女性だった。

年齢は私より少し若いくらい。でもその目元には、同じ痛みの色が滲んでいた。

「あなたも、あの人に“運命”って言われましたか?」

彼女はそう言った。

心臓の奥が凍るような音を立てて、私の中で何かが崩れ始めた。

私だけじゃなかった。

あの愛しさも、あの優しさも、あの激しさも――私だけのものじゃなかった。

笑ってしまいそうだった。

でも、涙が先に落ちていた。

第6話:それでも愛してしまう

「あなたは、彼をどう思っていますか?」

彼女の問いに、私は答えられなかった。

どう思っているかなんて、もう分からなくなっていた。

好きだった。愛していた。欲しかった。手に入れたつもりだった。

でも、私の知らない彼が、彼女の中にはいた。

「優しいですよね。お酒を飲んだとき、子どもみたいに甘えてきませんか?」

「あの人、冬になると足が冷えるって言って、いつも私の太ももにくっつけてくるんです」

聞きたくないのに、彼女の口から出る“私の彼”のエピソードに、私は少しずつ壊れていった。

同じことをしていた。

同じ言葉を、同じタイミングで、同じように。

どちらかが偽物なんじゃない。

どちらも“本気”だったのだ。彼にとっては。

「ねえ、やめませんか?」

彼女がぽつりと言った。

「私たち、どちらかが選ばれるって思ってるかもしれないけど、きっと違います。あの人は、私たちのどちらも手放す気なんてないんですよ」

正論だった。きれいすぎて、苦しくなるほどの正論だった。

でも、私は首を横に振った。

「ごめんなさい。私は……やめられない」

誰かに取られるくらいなら、二番でも、都合の女でも、何でもいい。

嘘でもいい、偽りでもいい。

彼の腕の中にいるときだけ、私は“必要とされている女”になれるから。

プライドも、常識も、壊れてしまえば楽になる。

それでも、彼が“欲しい”という眼で見てくれるうちは、私、生きていられる気がした。

「……そうですか」

彼女はそれ以上、何も言わなかった。

カフェを出ると、空が泣きそうな色をしていた。

梅雨の終わり。あの人と出会った季節。

この雨が止んだら、私たちはどうなってしまうんだろう。

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