「もう裏切らないって、言ってくれたのに」
結衣(ゆい)は、また彼のスマホ画面を見てしまった。
ロックをかけ忘れていたLINEのトーク画面。
そこには、他の女性とのやり取りがいくつも並んでいた。
「また、なの……?」
言葉が出なかった。
胸の奥に、冷たいものがじわじわと広がっていく。
でも——なぜか、彼を責めることができない。
「好き」だけでは、だめだと分かっているのに
結衣は過去に何度も、彼に裏切られている。
浮気。
連絡が途絶えること。
約束を破ること。
そのたびに、涙を流し、もうダメだと思った。
それでも、彼の「ごめん」「もうしないから」という言葉を信じてきた。
「私が彼を信じてあげなきゃ、って思ってた」
それはまるで、“自分だけが彼を理解できる”という役割を手放せないような感覚だった。
どうして信じてしまうのか、誰かに聞いてほしかった
夜中、友達にも話せず、誰にも相談できず。
ひとりで抱えたモヤモヤが限界に達した夜、結衣は電話占いにすがるような気持ちで連絡した。
画面に表示されたのは、柔らかい表情の占い師・紅音(あかね)先生。
レビューには、「裏切られた恋に寄り添ってくれた」「自分を責めずにいられた」という言葉が並んでいた。
「こんばんは、結衣さん。今日は、どうされましたか?」
そのやさしい声に、張り詰めていた感情がこぼれた。
「何度も裏切られてるのに、彼を信じたいんです。おかしいですよね?」
「おかしくなんて、ありませんよ。信じたいと思うのは、結衣さんが“愛にまっすぐ”な人だからです」
紅音先生は、彼の気持ちと2人の未来を霊視しながら、ゆっくりと話し始めた。
「彼には、結衣さんのような“無条件で信じてくれる人”を手放したくないという気持ちがあります。
でも一方で、自分の欲望や未熟さをコントロールしきれていない部分もあります」
——つまり、彼は反省していないということ?
「後悔はしています。でも、反省が“変化”につながっていないのが今の状態です」
「信じること」と「許すこと」は違う
紅音先生は続けた。
「信じることは、愛の証です。でも、信じ続けることであなたが壊れてしまうなら、それは“愛”ではなく“犠牲”です」
結衣はそこで、はじめて気づいた。
——私は彼を信じたいというより、“信じる自分でいたい”だけだったのかもしれない。
「信じることで、関係がうまくいくと“信じたかった”だけだったんだ」

「あなたが壊れてしまう前に」
紅音先生のアドバイスはこうだった。
「今、彼と距離を置くことが、あなたの心を守る一歩です。愛しているからこそ、一度立ち止まって。
彼があなたの大切さに気づく“余白”を作ってあげてください」
でもその一歩が、何より怖い。
彼が離れてしまったら、戻ってこなかったら。
自分には彼しかいないと思っていたから。
そんな不安を口にすると、紅音先生はこう言った。
「彼しかいないと思っていたあなたは、彼に“すべて”を預けすぎていただけ。
でも、あなたの中には、自分で立ち上がれる強さもちゃんとあるんですよ」
「信じたい」という優しさを、まず自分に向ける
その言葉に、結衣はハッとした。
彼の言葉を信じたいと思っていたのは、
どこかで「私が我慢すればうまくいく」と思い込んでいたから。
でも、“信じて裏切られる”たびに、結衣の心は傷ついていた。
信じていい相手かどうかを見極めることも、
“本当に自分を大切にする”ということなのかもしれない。
自分を信じる勇気を取り戻すとき
占いのあと、結衣はスマホをそっと伏せた。
彼からの「また会いたい」というメッセージ。
それを、すぐには開かず、自分の好きな音楽を流した。
「私が彼を信じたいと思う気持ちは、優しさだ。
でもその優しさを、今は自分自身に向けてあげよう」
紅音先生の言葉が、胸にしっかり残っていた。
裏切られても信じたい——そんなときに思い出してほしいこと
- 「信じたい」という気持ちは、あなたの優しさ
- でも、それがあなたを傷つけているなら、一度立ち止まって
- 相手の変化ではなく、“自分がどう生きたいか”に目を向けて
恋の形はひとつじゃない。
裏切られた過去があっても、そこから未来を選び直すことはできる。
あなたがあなたを信じてあげられるようになったとき、
本当に愛される恋が、きっと訪れます。
