「私の理想の人は、ステージの上にいるの」
真面目な顔でそう言った私に、友達は少し呆れたように笑った。
推し――
それは私の毎日を照らしてくれる光。
画面越しの彼の笑顔に救われて、孤独な夜を何度も乗り越えた。
現実の恋愛?
そんなの、煩わしいだけ。
期待して、裏切られて、泣いて……
だったら、理想の彼を一方的に愛してる方が、ずっと楽だった。
そんなふうに思っていたある日――
私は、とある仕事の打ち上げで出会ってしまった。
彼は、推しとは真逆のタイプだった。
人懐っこくて、よく笑って、
でも誰よりも人の心の機微に気づく、不思議な人。
「俺、好きな人できたらすぐバレるタイプなんだよね」
「え?誰?」
「言わない。でも、目が合うとニヤけちゃうんだよなぁ」
彼の視線が、まっすぐに私に向いていた。
その瞬間、心がぐらりと揺れた。
“こんな風に、見つめられるのって、ずいぶん久しぶりだな”
家に帰っても、なぜか彼の言葉が頭から離れなかった。
寝る前に推しの動画を再生しても、浮かんでくるのは彼の笑顔。
まさか、私が“現実の誰か”にこんなふうに心を奪われるなんて。
自分自身がいちばん驚いていた。
だけど、それは同時に怖さも伴っていた。
期待して、また傷ついたらどうしよう。
彼の気まぐれだったらどうする?
もしかしたら私だけが勘違いしているのかも――
そんな迷いの中、私はある夜、
ふと目に留まった「電話占い」のページを開いていた。
半信半疑だったけど、どうしても誰かに「今の気持ち」を聞いてほしかった。
電話の向こうから聞こえたのは、落ち着いた優しい声。
「あなた、もう心では決まってるのよ。
怖いのは“過去の恋”でできた傷。
でもね、本気で恋をしたとき、人って前に進む力が湧くの。
それは、過去の恋にはなかったエネルギーよ」
電話を切ったあと、私は少し泣いて、そして笑った。
“あぁ、そうか。私は、また恋をしてるんだ”
その後、彼とは少しずつ距離を縮めていった。
告白されたのは、それから3ヶ月後。
不器用だけど真っ直ぐな想いを、私は受け止めることができた。
推しもまだ大切。
だけど、“現実の誰かと心を通わせる喜び”は、
想像していたよりも、ずっと温かくて、柔らかかった。
あの日、あの電話で
「あなたの恋は、もう始まってる」と言われた意味が
ようやく、今ならわかる気がする。
💬 推しがいるからこそ、現実の恋が怖いあなたへ
「誰かを本気で好きになるのが怖い」
「傷つくのが嫌で、恋愛を避けてしまう」
「でも、もし運命の人がいるなら、会ってみたい――」
そんなあなたの心を、そっと照らす言葉をくれる人がいます。
推しも、恋も、どちらも大切にしていい。
あなたの幸せの形は、ひとつじゃないのだから。